東京高等裁判所 平成7年(行ケ)143号 判決 1997年2月27日
滋賀県大津市におの浜4丁目7番5号
原告
オプテックス株式会社
同代表者代表取締役
小林徹
同訴訟代理人弁理士
西田新
同
倉内義郎
京都府京都市山科区勧修寺東金ヶ崎町44番地
被告
セルコ株式会社
同代表者代表取締役
吉田昌治
同訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
松本司
同
今中利昭
同
吉村洋
同
浦田和栄
同
辻川正人
同
岩坪哲
同
田辺保雄
同
南聡
主文
特許庁が平成5年審判第18766号事件について平成7年4月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、考案の名称を「広角型光電スイッチ」とする登録第1948490号実用新案(昭和58年11月28日出願、平成5年1月19日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
原告は、平成5年9月21日、本件考案の登録を無効とすることにつき審判の請求をし、特許庁は、この請求を同年審判第18766号事件として審理した結果、平成7年4月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月8日、原告に送達された。
2 平成2年9月4日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の本件考案の要旨
異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段と、当該光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラーと、当該放物面ミラーの収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチにおいて、
前記光学手段の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成することを特徴とする広角型光電スイッチ。
3 審決の理由
別添審決書写しのとおりである。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由1のうち、別添審決書写し2頁3行ないし10行は認め、その余は争う。
同2、3は認める。
同4のうち、同15頁15行ないし16頁6行、17頁4行「および」から10行「されており」まで、同頁13行「出願公告」から16行まで、18頁6行「また」から19頁16行までは争い、その余は認める。
同5のうち、同25頁10行末尾の「本件」から19行「示唆もなく、」まで、26頁3行「本件考案」から27頁1行までは争い、その余は認める。
同6のうち、同31頁5行から32頁13行までは争い、その余は認める。
同7は認める。
同8のうち、同37頁15行、16行、44頁15行ないし47頁17行までは争い、その余は認める。
同9は争う。
審決は、出願公告後の補正である本件補正が実用新案法13条、特許法64条の規定に違反するものであるのにこの点の判断を誤ったため、誤った考案の要旨認定に基づいて進歩性の判断をした違法があり、仮に、本件補正の可否の判断に誤りがないとしても、考案の進歩性又は同一性の判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(補正の可否の判断の誤り)
<1> 本件補正のうち、「光学手段の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」とした部分は、実用新案法13条、特許法64条に違反するものである。
(a) 公告明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、「異なる角度から入射される複数の光束の各々に対応した個別の入射領域を有すると共に各領域を通過する光束を屈折させて各光束を略平行にして出射する複数のプリズムの組み合わせからなる複合プリズム手段、その複合プリズム手段から出射される略平行な光を1つの収束点に反射する放物面ミラー、その放物面ミラーの収束点に配置された受光素子、およびその受光素子の出力信号に基づいてオン・オフの作動を行うスイッチ回路を具備してなる広角型光電スイッチ。」というものであった。
(b) また、公告明細書の考案の詳細な説明の「(ニ)考案の構成」の欄には、「この考案の広角型光電スイッチは、異なる角度から入射される複数の光束の各々に対応した個別の入射領域を有すると共に各領域を通過する光束を屈折させて各光束を略平行にして出射する複数のプリズムの組み合せからなる複合プリズム手段、その複合プリズム手段から出射される略平行な光を1つの収束点に反射する放物面ミラー、その放物面ミラーの収束点に配置された受光素子、およびその受素子の出力信号に基いてオン・オフの作動を行うスイッチ回路を具備して構成される。上記複合プリズム手段におけるプリズムの組み合せは、フレネルレンズのように構成してもよい。ただし、レンズのように連続的なものでは不必要な方向からの光も入ってくるためS/N比が悪くて監視の確実性が低下するので、所望の方向の光束だけに対応させて入射領域を分け、各領域にプリズムを形成するべきである。」(甲第23号証の1第3欄1行ないし18行)、「(ホ)実施例」の欄には、「異なる角度から窓面14に入射される光束A、B、Cは、それぞれに対応すうプリズム16a、16b、16cで屈折されて平行な光束a、b、cとなる。」と記載されている(同3欄25行ないし28行)。また、「プリズム」とは、JISハンドブックによれば、「平行でない平面を二つ以上もつ透明体」を意味する光学手段である。
すなわち、公告明細書によれば、本件考案は、「複数のプリズムの組み合せからなる複合プリズム手段」を必須の構成要件とするものであり、「複合プリズム手段」は、光束を屈折する複数のプリズムのみの組み合わせからなり、プリズム以外のものをその組み合わせの要素とするものでないことが明瞭に記載されている。
また、公告明細書の「(ヘ)考案の効果」の項には、普通の放物面ミラーを用いればよいから、精度やコストの点で製造性が向上する、監視エリアの変更に対応して複合プリズム手段を取りかえればよく、作業は容易である、監視不要のエリアの光束をカットするとき、外部から窓の一部をマスキングするだけでよいから作業負担が軽減する点のみが記載されていた。
(c) 本件補正により、実用新案登録請求の範囲の記載は、前記2のとおり補正され、公告明細書の「(ホ)実施例」の項も、「光学手段16は、前面を水平面に形成し、後面を光がそのまま透過する平面部16bと当該平面部16bに連なる複数のプリズム16a、16cとから構成される。」(甲第23号証の2訂19頁下から11行、10行)と補正された。
そして、「(ヘ)効果」の項についても、ⅰ)光学手段は、前面が水平面で裏面に複数のプリズムを有するため、製作が簡単で安価である、ⅱ)プリズムを用いているので、必要な方向の光のみが入射し、S/N比が向上する、ⅲ)光学手段の前面が平面に形成されているので、監視エリアの調整に際し、マスキングテープを簡単に貼ったり、あるいは剥がしたりすることができる等の新たな効果について記載されたが、上記ⅰ)、ⅲ)の効果は、「光学手段の前面には水平面を形成すること」に基づいて奏される効果である。
(d) 公告明細書には、図面の簡単な説明の項に、「第2図はこの考案の広角型光電スイッチの一実施例の構成説明図である。」(甲第23号証の1第4欄32行、33行)と記載され、第2図にかなり概略的な図面が記載されているが、第2図(別紙参照)は、紙面方向に厚みが傾斜したプリズムの端面図(断面された面のみが表現されている)を表しているものと判断される。
(e) したがって、本件補正のうち、「光学手段の前面」を「水平面」とした部分、及び、「後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」とした部分は、考案の要旨を実質的に変更したものである。
<2> その結果、本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しないことを前提とする審決の第一の理由についての判断(別添審決書写し19頁18行ないし27頁14行)及び第二の理由についての判断(同27頁16行ないし32頁13行)は、誤りとなる。
(2) 取消事由2(第四の理由についての判断の誤り)
審決は、「甲第2号証に記載されたものは、・・・本件考案とは技術分野も課題も異なる「自動車用ヘッドランプ」に係るものであり、しかも電球から出射される光線を1つの軸方向に平行ならしめるものであって、・・・本件考案のごとく「異なる角度から入射される複数の光束を略平行光束とする光学手段」とは基本的な機能構成において相違しており、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もない」(別添審決書写し44頁15行ないし45頁7行)、「甲第8号証の考案は、異なる角度から入射される複数の光束を屈折する複合プリズム面と、光束を一つの収束点に収束する集光手段であるサーキュラ・フレネルレンズとを、着脱自在な一つの板状の検知窓部材として一体に形成したことを特徴とするものと認められる以上、外形形状が類似する光学手段が開示された甲第2号証が存在したとしても、これらを分離して構成するとともに複合プリズム面を検知窓部材の前面から後面に移し変え、さらに前面を平面とすることを想起することは困難と認められざるを得ず、何らの考案力も必要としない設計的事項とはいえない」(同45頁16行ないし46頁8行)と判断するが、誤りである。
古来より、光束を集光する手段として、凸レンズを用いるか、凹面ミラーを用いるかは、相互に置換し得る光学手段として周知である(甲第30、第33号証)。甲第8号証の考案は、1枚の板状窓部材の前面にプリズムを設け、後面にフレネルレンズを設けたことは、従来は2個を要した光学部材点数を1個に集約した点に進歩性がある。本件考案は、甲第8号証の考案における1個の光学部材を元の2個の光学部材に戻すものであって、むしろ退歩である。1個の光学部材を2個に分離したとき、板状光学部材の内側にプリズムを形成し、外側を単なる平面とすることに何の困難性、意外性もない。例えば、甲第2号証の図3の偏向装置20、甲第3号証の第1図、第2図(イ)ないし(ハ)、第3図、第4図(イ)ないし(ハ)、第6図のフレネル型レンズ1は、すべて外側を平面にして使用されている。なお、甲第2号証の図3の偏向装置20は、全体として平板形の1枚の透光性プラスチックよりなり、その外面は平面であり、内面は、全体が上中下に3区分され、中央部が平面であり、上側と下側に鋸歯状断面の連続したプリズムが形成された構成である。本件考案においてその目的上、入射光を屈折させる方向が必然的に定められているから、甲第2号証の上記構成を知見している当業者が甲第8号証の考案の板状部材を本件考案の実施例のように設計変更することに何ら考案力を必要としないこと自明である。
(3) 取消事由3(本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しない場合の第一の理由についての判断の誤り)
仮に、本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しないとしても、審決は、「甲第2号証に記載されたものは、・・・本件考案とは技術分野も課題も異なる「自動車用ヘッドランプ」に係るものであり、しかも電球から出射される光線を1つの軸方向に平行ならしめるものであって、・・・本件考案のごとく異なる角度から入射される複数の光束を略平行光束とする光学手段とは基本的な機能構成において相違しており、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もなく」(別添付審決書写し25頁7行ないし19行)、「甲第3号証に記載されたものも、・・・本件考案とは技術分野も課題も異なる「車両用灯火装置」であって、しかも光学手段であるレンズの後面中央部は、入射する光束をそのまま透過する平面とはなっておらず光学手段の構成が本件考案のものとは明らかに相違しており、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もない」(同25頁末行ないし26頁9行)、「よって、甲第1号証に記載の技術に、技術分野、課題、および構成のいずれもが異なる甲第2、第3号証に記載された技術を組み合わせたとしても、本件考案の上記構成要件の主要部を得ることができたとは認められない」(同26頁10行ないし14行)と判断するが、誤りである。
甲第1号証には、「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段と、当該光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラーと、当該放物面ミラーの収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチにおいて、前記光学手段は中央部から入射する光束をそのまま透過する空間部が形成され、その空間部の両側には他の光束を略平行に屈折する複数のミラーを配設したことを特徴とする広角型光電スイッチ」が記載されている。
そして、例えば、甲第2又は第3号証により、光束の光路を屈折させるために板状透明体の前面を平面に、後面の所定領域にプリズムを形成してなる光学部材が周知であるから、甲第1号証の複数のミラーと中央部の空間部を、「前面が平面、後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する光学手段」に置換することは、当業者にとってきわめて容易になし得る考案である。
(4) 取消事由4(本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しない場合の第二の理由についての判断の誤り)仮に、本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しないとしても、
<1> 審決は、「請求人は、後者(甲第5号証の先願明細書)の「集光レンズ」と前者(本件考案)の「放物面ミラー」とは均等であると主張しているが、後者の「集光レンズ」は光分散用プリズム面と一体的に構成することにより「多面鏡と窓材とに分離していた従来の光学系と比較して構造が極めて簡単になる上、非常に安価に製作することが可能になった」・・・という後者の考案特有の効果を奏するものであり、集光レンズと放物面ミラーのいずれを採用するかによって受光素子との配置関係も変わるものであるので、「集光レンズ」と「放物面ミラー」とが光収束手段として一致していたとしても、本件考案の広角型光電スイッチにおいては均等とは認められない」(別添審決書写し31頁5行ないし18行)と判断するが、誤りである。
集光手段として甲第5号証の先願明細書に記載のもののように凸レンズ(集光レンズ)を用いるか、本件考案のように放物面ミラーを用いるかは、単なる慣用手段の転換にすぎない。
<2> また、審決は、「請求人は後者の「板状部材6の鋸歯状複合プリズム面(傾斜溝9)の配設ピッチが約0.5mmでほとんど平面である」旨主張しているが、この傾斜溝は、マスキングテープの厚み、その接着剤層の厚みおよび埃の大きさに対して無視することができない溝深さを有するものと認められるので、この後者の複合プリズム面を「平面」とみなすことはできない」(同31頁19行ないし32頁6行)と判断するが、誤りである。
複数のプリズムを並置するとき、その平面と傾斜面のどちらを前面に向けるかの相違は、単なる慣用手段の転換にすぎない。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
<1> 本件考案は、構成が簡単であり、監視する光束の変更が容易であり、光束のカットが外部から容易に行える広角型光電スイッチを提供することを目的とし(甲第23号証の1第2欄24行ないし27行)、異なる角度から集中的に入射される光束を光電スイッチ内で平行光束とする「複合プリズム手段」を採用したため、従来技術の「光学的に異なる凹面ミラー」に代えて構造の簡単な「放物面ミラー」により該光束を1つの収束点に収束させ得ることが可能となったのである。したがって、公告明細書(甲第23号証の1)における「複合プリズム手段」とは、JIS規格の意義での「プリズム」のみを複数組み合わせたものではない。複合プリズム手段の中央部に垂直に入射する光束は直進させなければならないから、該部分はJIS規格の「プリズム」ではなく、平面である必要があるからである。この点は、当業者に自明の知見である。
公告明細書(甲第23号証の1)の第2図には、前面が水平面で、「16b」は、上辺と下辺が平行な直線で記載された光束が通過する透明体として図示されており、かつ、透過する光束が直進している部分として図示されている。
そして、補正明細書に記載された効果も、本件考案、特に、その実施例として開示された構成から当業者が当然に予測可能な事項である。
<2> したがって、本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しないとの審決の判断に誤りはなく、したがって、審決の第一の理由及び第二の理由についての判断にも誤りはない。
(2) 取消事由2について
甲第8号証の考案は、前面にプリズム面を後面に集光レンズ面とを、1つの板状窓部材として一体に形成したことを特徴とする考案であり、この構成を採用することで、構造が簡単、安価に製作することが可能になったという特有の効果を奏するものである。したがって、甲第8号証の考案からは、プリズム面とレンズ面とを別部材に分ける構成は示唆されるどころか、むしろ逆に排斥されるべき構成とされている。また、前面はプリズム面、後面はレンズ面でなければならないとされ、また、これを逆転させることは否定されているのである。
そして、光束を収束する手段として、凸レンズと凹面ミラーが存在するが、両者の構造、機能には差異がある。甲第8号証の考案では、光散乱用プリズム面と一体的に形成する光収束手段として凹面ミラーを採用する余地はないし、また、本件考案の広角型光電スイッチにおいては、いずれを採用するかによって受光素子との位置関係も変わるものであるから、両者は均等とは到底いえない。
さらに、甲第2号証の考案は、本件考案と技術分野も課題も異なる自動車用ヘッドランプに関する考案であり、しかも電球から出射される光線を1つの軸方向に平行ならしめるもので、本件考案のように「異なる角度から入射される複数の光束を略平行光束とする光学手段」とは基本的に機能構成において相違するものである。そして、甲第2号証には、本件考案の主要部である上記光学手段の具体的構成が開示も示唆もされていない。
(3) 取消事由3について
甲第1号証の「光誘導体」は「ルーバ型に配置された複数個の平板ミラー」なるものであって、プリズムを備えておらず、本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成である「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段・・・の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成すること」については記載されていない。
さらに、甲第1号証には、本件考案の構成を採用することにより「構成が簡単であり、かつ監視する光束の変更を容易に行うことができ、さらに光束のカットを外部から容易に行うことができる広角型光電スイッチを提供すること」を図ることが示唆されてはいない。
甲第2号証の考案も、本件考案とは技術分野も課題も異なる「自動車用ヘッドランプ」に関する考案であり、電球から出射される光線を1つの軸方向に平行ならしめる光学手段であって、本件考案のように異なる角度から入射される複数の光束を略平行光束とするものではなく、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もないのである。
また、甲第3号証の考案も、本件考案とは技術分野も課題も異なる「車両用灯火装置」に関する考案であり、光学手段の構成も本件考案とは明らかに相違し、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成についても開示も示唆もない。
(4) 取消事由4について
甲第5号証の考案のプリズム面に関しては、「所定の検知エリアから放射された赤外線はそれぞれ予め設定されたプリズム面7の所定の領域で、傾斜溝9の集合群に固有な斜辺の傾斜角度に応じて屈折され、板状部材6を通過して反対側の集光レンズ面8により集光されて受光素子2に入射するものである。」(甲第5号証6頁7行ないし12行)及び第3図の光束の板状部材7内での進行方向よりうかがえるように、略平行光束ではない。
そして、甲第5号証の考案の板状部材は、内側面は集光用レンズ面を、また外側面には光分散用プリズム面を形成したものであって、前面は、本件考案では「平面」であるのに対し、甲第5号証の考案では「光散乱用プリズム面」であり、後面は、本件考案ではプリズム面であるのに対し、甲第5号証の考案では「集光用レンズ面」であるという相違がある。
そして、本件考案の集光は放物面ミラーという別部材で構成されている。
甲第5号証の考案は、前面にプリズム面、後面に集光レンズ面を、1つの板状の部材として一体に形成したことを特徴とする考案であり、この構成により、構造が簡単、安価に製作することができるという特有の効果を奏する考案である。したがって、甲第5号証の考案からは、プリズム面とレンズ面とを別部材に分ける構成は示唆されるどころか、むしろ逆に排斥されるべき構成とされているのである。
また、前面はプリズム面、後面はレンズ面でなければならないとされ、また、これを逆転させることは否定されているのである。
原告の主張は、本件考案の構成、甲第5号証の考案の構成の各特徴、各考案の構成による作用効果の相違、各構成中の各部材の役割を無視し、単なる部材毎の機能の類似性のみに着目した主張にすぎず、当を得ないものであることは明白である。
証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、甲第8ないし第12号証、乙第4号証を除き、当事者間に争いがない(甲第38、第39号証については、原本の存在も)。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件補正後の本件考案の要旨)及び同3(審決の理由)については、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1(補正の可否の判断の誤り)について
<1> 審決の理由4のうち、別添審決書写し15頁15行ないし16頁6行、17頁4行「および」から10行「されており」まで、同頁13行「出願公告」から16行まで、18頁6行「また」から19頁16行までを除く事実は、当事者間に争いがない。
<2> 公告明細書に、第2図に示す実施例について、「異なる角度から窓面14に入射される光束A、B、Cは、それぞれに対応するプリズム16a、16b、16cで屈折されて平行な光束a、b、cとなる。」(甲第23号証の1第3欄25行ないし28行)と記載されていることは、前記<1>に説示のとおりである。
一方、甲第23号証の1によれば、公告明細書の第2図には、複合プリズム手段の前面は、単一の平坦面となっており、「16b」は、上辺と下辺が平行な透明体として図示されており、かつ、透過する光束が直進する部分として図示されており、この部分は、上辺と下辺が平行でなく、かつ、透過する光束が屈折する部分として図示されている部分「16a」及び「16c」とは明らかに異なっていることが認められる。
さらに、甲第23号証の1によれば、公告明細書には、「この考案は、構成が簡単であり、かつ監視する光束の変更を容易に行うことができ・・・ることを目的とする。」(2欄24行ないし27行)、「また、監視する光束数の増減や方向の変更は、複合プリズム手段を取り換えればよく、その作業は容易である。」(4欄20行ないし22行)、「監視する必要のない方向例えばAをカットしたいときには、ケース15を開ける必要はなく、その光束Aに対応するプリズム16aの位置している窓面部分に外部からマスキング板19を貼着するだけでよい」(4欄10行ないし14行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、監視する方向は特定の方向ではなく、複合プリズム手段の取換えは、監視する方向を変更するためであること、したがって、監視する方向によっては、必ずしもプリズムによって入射光束を屈折しなければならないものではないことが示唆されていることが認められる。
以上によれば、公告明細書第2図に示された複合プリズム手段は、その前面は単一の平坦面であり、「16b」は、プリズムとの記載はあるが、平板であると認められる。原告は、上記「16b」を紙面方向に厚みが傾斜したプリズムであると主張するが、この主張は、上記に説示したところに照らし、採用できない。
そうすると、公告明細書の「異なる角度から入射される複数の光束の各々に対応した個別の入射領域を有すると共に各領域を通過する光束を屈折させて各光束を略平行にして出射する複数のプリズムの組み合せからなる複合プリズム手段」という記載を、「光学手段の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」とした本件補正は、実用新案登録請求の範囲を減縮し、明細書の明瞭でない記載を釈明するものであり、かつ実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、実用新案法13条、特許法64条の規定に違反するものではないと認められる。
<3> 原告は、本件補正によって追加された効果に関する記載は、公告明細書に記載された本件考案の実施例から当然に予測可能な事項ではない旨主張するが、これらの効果は、いずれも「前面に水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成」した本件補正後の光学手段が当然奏する効果であるから、この点の原告の主張は採用できない。
<4> したがって、原告主張の取消事由1は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(2) 取消事由3(本件補正が実用新案法13条、特許法64条に違反しない場合の第一の理由についての判断の誤り)について
<1> 審決の理由5のうち、甲第1号証の記載事項の認定(別添審決書写し20頁2行ないし12行)、本件考案と甲第1号証に記載されたものとの一致点、相違点の認定(同23頁1行ないし25頁6行)は、当事者間に争いがない。そして、甲第1号証によれば、同号証には「第1図に示す5方向からの光束は170°の角度をカバーし、誘導ミラー4-9により軸方向に平行な光束となり、凹面ミラー3に誘導される。」(訳文3頁3行ないし5行)、「光軸に平行な視界(field of view)からの光は、ミラーとミラーの間、主にミラー6と7の間の凹面ミラー3部分にそのまま誘導される。」(訳文3頁7行ないし9行)と記載されていることが認められる。
そうすると、甲第1号証には、「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段と、当該光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラーと、当該放物面ミラーの収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチにおいて、前記光学手段は、中央部から入射する光束をそのまま通過する空間部が形成され、その空間部の両側には他の光束を略平行に屈折する複数のミラーを配設した広角型光電スイッチ」が記載されていると認められる。
<2> 審決の理由5のうち、甲第2号証の記載事項の認定(別添審決書写し20頁13行ないし21頁12行)は、当事者間に争いがない。そして、甲第2号証(1981年9月25日出願、1982年4月7日出願公開)の第3図によれば、同号証には、偏向装置の前面には水平面が、後面には、中央部に入射する光束をそのまま透過する平面と、この平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面を形成することが示されていると認められる。
また、審決の理由5のうち、甲第3号証の記載事項の認定(同21頁13行ないし22頁5行)は、当事者間に争いがない。そして、甲第3号証(昭和55年4月21日出願、昭和56年11月21日出願公開)の第2図によれば、同号証には、反射板により反射されて略平行にされた光束を所望方向に屈折するレンズ1、すなわち偏向装置が示されており、この偏向装置の前面には平面が、後面にはその所定領域にカットを施した鋸歯状断面、すなわちプリズム面を形成することが示されていることが認められる。
以上に説示の事実によれば、光束の光路を偏向するために、その前面には水平面を、後面には所定領域にはプリズム面を形成した偏向装置を設けることは、本件考案の出願時、公知であったと認められる。
<3> そうすると、甲第1号証に記載されたものの光路を変更する部分にある光路変更手段である複数のミラーを、同じく光路を変更する手段であるプリズムに変更すること、及び、甲第1号証に記載されたものの光路を変更することなくそのまま通過させる部分にある中央部の空間を、同じく光束をそのまま通過させる平面に置換することは、当業者にとってきわめて容易であると認められる。
そして、補正明細書に記載の光学手段前面と裏面の中央部は、平面であるため、不要な反射がなく集光効率が高い、光学手段の前面が平面部であるため、その表面には埃が付着しないので、光の透過度が低下しない等の効果(別添審決書写し3頁14行ないし4頁11行)は、上記構成を採用することによって当然予測され得る効果であって、格別なものと認めることはできない。
<4> 被告は、甲第2又は第3号証に記載のものは、本件考案とは技術分野も課題も異なる自動車用ヘッドライトに関するものであり、本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もない旨主張する。しかしながら、甲第23号証の2によれば、補正明細書には、「受光素子13に接近して図示されていない発光素子が設けられており、たとえば、その発光素子は、断続変調光を出射している。その断続変調光は、前記放物面ミラー12および光学手段16から入射する入射光と逆の径路を通って各監視所へと出射され、そこで反射されて上記のような入射光として受光素子13で検知される。」(訂19頁下から7行ないし4行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、本件考案においても、収束点に配置した受光素子に近接して配置した発光素子の出射光を入射光とは逆方向に出射するものであるから、本件考案と甲第2又は第3号証に記載のものとが技術分野及び課題を異にすると解することはできず、また、本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成について開示があることは、前記<2>に説示のとおりであるから、この点の被告の主張は採用できない。
<5> したがって、原告主張の取消事由3は理由がある。
(3) 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。
3 よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
平成5年審判第18766号
審決
滋賀県大津市におの浜4丁目7番5号
請求人 オプテックス 株式会社
大阪府大阪市北区兎我野町15番13号 ミユキビル
代理人弁理士 西田新
大阪府大阪市北区西天満2丁目5番10号 山上筒井法律特許事務所
代理人弁理士 筒井豊
京都府京都市山科区勧修寺東金ケ崎12-1
被請求人 セルコ 株式会社
東京都中央区八丁堀3丁目11番12号 川ロビル 加藤恭介特許事務所
代理人弁理士 加藤恭介
上記当事者間の登録第1948490号実用新案「広角型光電スイッチ」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
1.本件考案
本件登録第1948490号実用新案(以下「本件考案」という。)は、昭和58年11月28日の実用新案登録出願(実願昭58-184279号)について、前置審査において平成元年10月24日に出願公告(実公平1-34833号)がされ、拒絶査定に対する審判において登録異議の決定および審決がされた後、平成5年1月19日に設定の登録がなされたものである。
そして、本件考案の要旨は、公告後の平成2年9月4日付手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されているとおりの
「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段と、当該光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラーと、当該放物面ミラーの収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチにおいて、
前記光学手段の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成することを特徴とする広角型光電スイッチ。」
にあるものと認める。
そして、本件考案は、上記事項をその構成に欠くことができない事項としていることにより、下記の効果(A)~(F)を奏する(平成2年9月4日付手続補正書第6頁第3行~第7頁第3行)ものである。
記
(A)製作が簡単で安価なものができる。
(B)光学手段の部分を簡単に交換するだけで、多種の光束に対応できる。
(C)レンズを使用せずにプリズムを用いているので、必要な方向の光のみが入射するため、S/N比が向上する。
(D)光学手段の前面と裏面の中央部は、平面であるため、不要な反射がなく集光効率が高い。
(E)監視が不要な光束をカットする際、あるいは初期調整を行う際に、光学手段の前面が平面として形成されているので、マスキングテープを簡単に貼ったり、あるいは剥したりすることができ、マスキングテープを剥す場合に、光学手段の表面が平坦面であるから、マスキングテープによって付けられた光学手段の表面の接着剤を除去し易い。
(F)光学手段の前面が平面部であるため、その表面には埃が付着しないので、光の透過度が低下しない。
2.請求人の主張
これに対し請求人は、「本件考案の登録はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、下記の甲第1号証ないし甲第23号証の2までの証拠を提出し、4つの無効理由を主張しており、これらを要約すると、次の(1)ないし(4)のとおりである。
記
甲第1号証:米国特許第4、268、752号明細書、およびその要部翻訳
甲第2号証:英国特許公開公報GB2、084、309A、およびその要部翻訳
甲第3号証:実開昭56-156201号公報
甲第4号証の1:本件の審査手続における拒絶査定書
甲第4号証の2:本件の審査手続における拒絶理由通知書
甲第4号評の3:実公昭56-12746号公報(本件の審査手続における上記拒絶理由通知書に示された引用例)
甲第5号証:実願昭58-39374号の願書、明細書および図面
甲第6号証:実開昭59-144585号公報(甲第5号証の公開公報)
甲第7号証:特開昭57-125496号公報
甲第8号証:オプテックス株式会社が本件出願前に販売した広角型光電スイッチ、商品名「熱線スイッチOP-05P」の現物に代わる写真
甲第9号証:オプテックス株式会社名が印刷された、上記「熱線スイッチOP-05P」の商品カタログ
甲第10号証:オプテックス株式会社名が印刷された、上記商品「熱線スイッチOP-05P」の取扱説明書
甲第11号証:オプテックス株式会社名が印刷された、上記「熱線スイッチOP-05P」の外形寸法図
甲第12号証:オプテックス株式会社名が印刷された、上記「熱線スイッチOP-05P」のサーキュラ・フレネルレンズの部品図
甲第13号証:「ガラス新聞」昭和58年4月25日号の要部
甲第14号証:「日本工業技術新聞」昭和58年4月20日号の要部
甲第15号証:「日刊工業新聞」昭和58年4月20日号の要部
甲第16号証:「日経産業新聞」昭和58年4月9日号の要部
甲第17号証:「ガラス時報」昭和58年4月18日号の要部
甲第18号証:本件の出願、実願昭58-184279号に係る登録異議申立書
甲第19号証:本件の出願、実願昭58-184279号に係る登録異議申立理由補充書
甲第20号証:本件の出願、実願昭58-184279号に係る登録異議申立弁駁書
甲第21号証:本件の出願、実願昭58-184279号に係る登録異議申立手続における証拠調期日指定通知書
甲第22号証の1:本件の出願、実願昭58-184279号に係る登録異議申立手続における証人尋問申立書および当事者尋問申立書
甲第22号証の2:本件の出願、実願昭58-184279号に係る登録異議申立手続における証拠調調書
甲第23号証の1:本件の出願の公告公報、実公平1-34833号公報
甲第23号証の2:上記実公平1-34833号公報の補正の掲載公報
(1)第一の理由
出願人が出願公告決定後の平成2年9月4日付でした手続補正は、出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲を拡大しあるいは実質的に変更したものであるので実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反するものである。
したがって、実用新案法第9条第1項において準用する特許法第42条の規定により、上記補正がなされなかったものについて登録されたものとみなされる。
そして、上記出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載のとおりの考案は、本件考案出願前に刊行された甲第1号証(米国特許第4、268、752号明細書)、甲第2号証(英国特許公開公報GB2、084、309A)および甲第3号証(実開昭56-156201号公報)の文献に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであって、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により、無効にされるべきものである。
(2)第二の理由
出願人が出願公告決定後の平成2年9月4日付でした手続補正は、出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲を拡大しあるいは実質的に変更したものであるので実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反するものである。
したがって、実用新案法第9条第1項において準用する特許法第42条の規定により、上記補正がなされなかったものについて登録されたものとみなされる。
そして、上記出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載のとおりの考案は、本件考案出願前に出願されその後に出願公開された甲第5号証の実願昭58-39374号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、先願明細書という)に記載された考案と同一であって、実用新案法第3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであって、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により、無効にされるべきものである。
(3)第三の理由
出願人が出願公告決定後の平成2年9月4日付でした手続補正は、出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲を拡大しあるいは実質的に変更したものであるので実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反するものである。
したがって、実用新案法第9条第1項において準用する特許法第42条の規定により、上記補正がなされなかったものについて登録されたものとみなされる。
そして、上記出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載のとおりの考案は、本件考案出願前に刊行された甲第7号証(特開昭57-125496号公報)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであって、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により、無効にされるべきものである。
(4)第四の理由
仮に、出願公告決定後の平成2年9月4日付手続補正書による補正が、実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反しないものであったとしても、この補正後の考案は、甲第9号証ないし甲第22号証の2により本件考案出願前の昭和58年4月21日に日本国内において公然実施されたことが明かな甲第8号証(商品名「熱線スイッチOP-05P」としてオプテックス株式会社が販売した広角型光電スイッチ)の考案および甲第2号証(英国特許公開公報GB2、084、309A)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであって、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により、無効にされるべきものである。
3.被請求人の主張
一方、被請求人は、結論のとおりの審決を求め、反証として下記の乙第1号証ないし乙第3号証を提出し、要するに、請求人の主張する何れの理由も失当である旨主張している。
記
乙第1号証:昭和58年実用新案登録願第184279号「広角型光電スイッチ」拒絶査定に対する審判事件(平成1年審判第1813号)に関して、株式会社日本アレフよりなされた登録異議申立について、理由がないものとする登録異議の決定
乙第2号証:昭和58年実用新案登録願第184279号「広角型光電スイッチ」拒絶査定に対する審判事件(平成1年審判第1813号)に関して、オプテックス株式会社よりなされた登録異議申立について、理由がないものとする登録異議の決定
乙第3号証:無効審判事件に対する証拠と登録異議申立事件に対する証拠との比較
4.公告決定後の補正について
請求人が主張する前記第一の理由ないし第四の理由について検討するに先立って、まず、第一理由ないし第三の理由の前提となっている出願公告決定後の平成2年9月4日付手続補正書による補正が、実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反するものであるか否かについて検討する。
出願公告された明細書(以下、「公告明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲には、「異なる角度から入射される複数の光束の各々に対応した個別の入射領域を有すると共に各領域を通過する光束を屈折させて各光束を略平行にして出射する複数のプリズムの組み合わせからなる複合プリズム手段、その複合プリズム手段から出射される略平行な光を1つの収束点に反射する放物面ミラー、その放物面ミラーの収束点に配置された受光素子、およびその受光素子の出力信号に基づいてオン・オフの作動を行うスイッチ回路を具備してなる広角型光電スイッチ。」と記載されている。
平成2年9月4日付手続補正書によって補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲と公告明細書の実用新案登録請求の範囲とを比較すると、両者は、「・・・・から出射される略平行な光束を1つの収束点に反射する放物面ミラー」、「放物面ミラーの収束点に配置された受光素子」および「受光素子の出力信号に基づいてオン・オフの作動を行うスイッチ回路」に関する点については実質的に一致しており、放物面ミラーに対して略平行な光束を出射する手段が、後者の「複合プリズム手段」から前者の「光学手段」に補正された点において相違している。
この相違点について検討すると、補正明細書の実用新案登録請求の範囲によれば、前段の「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段」は、後段において「前記光学手段の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」とさらに限定されていることは明らかである。公告明細書の「異なる角度から入射される複数の光束」は、「中央部から入射する光束」と「他の光束」とに限定されており、この補正は、公告明細書の「異なる角度から入射される複数の光束」と表現されていた記載をより明瞭にしかつ具体的に表現したものと認められる。
また、「光学手段の前面には水平面を、そして後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」とした補正は、公告明細書の「異なる角度から入射される複数の光束の各々に対応した個別の入射領域を有すると共に各領域を通過する光束を屈折させて各光束を略平行にして出射する」という機能を有する光学手段であるところの「複数のプリズムの組み合わせからなる複合プリズム手段」という記載をより明瞭にかつ具体的に表現したものと認められる。
請求人は、公告明細書の考案の詳細な説明の中に、「光学手段」、「光学手段の前面には水平面を形成する」、「光学手段の後面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」という記載またそれに相当する記載を見出すことができない旨主張しているが、同考案の詳細な説明の中の「各領域を通過する光束を屈折させて各光束を略平行にして出射する」(実公平1-34833号公報第3欄第1~4行)という記載からみて公告明細書の「プリズム手段」が光学手段の範疇に包含されるものであることは明かであり、また、公告明細書の考案の詳細な説明における「異なる角度から窓面14に入射される光束A、B、Cは、それぞれに対応するプリズム16a、16b、16cで屈折されて平行な光束a、b、cとなる。」(同公報第3欄第25~28行)という記載および出願公告された図面の第2図を参照すると、プリズム16a、16b、16cの前面は、単一の平坦な面となっており、また中央部のプリズム16bの後面は入射する光束Bがそのまま直進透過し平行な光束bとして出射するように平面で形成されており、さらに左右のプリズム16aおよび16cの後面は該平面に連なり他の光束AおよびCを略平行な光束aおよびcとなるよう屈折するプリズム面となっているものと認められ、出願公告された明細書および図面には、補正明細書の本件考案の構成が実施例としてすべて記載されているので、請求人の主張は採用することができない。
また、請求人は、出願公告決定後の前記補正により、本件考案の目的についても実質的に変更されており、さらに本件考案の効果についても公告明細書の記載からは予測できない新たな効果が加入されている旨主張しているが、目的については、公告明細書の「構成が簡単であり、かつ監視する光束の変更を容易に行うことができ、さらに光束のカットを外部から容易に行うことができる広角型光電スイッチを提供する」ことから変更されておらず、また補正によって追加された効果に関する記載も、出願公告された明細書または図面に記載された本件考案の実施例から当業者が当然に予測可能な事項と認められる。
さらに、請求人は高等裁判所の判例を種々挙示しているが、いずれの判例も、本件考案にかかる公告決定後の前記補正が実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反するものとすべき根拠にはなり得ないものである。
上記したように、補正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案は、公告明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案に包含される一実施例としてその明細書および図面に記載されているものであるので、平成2年9月4日付手続補正書による補正は、明細書の明瞭でない記載の釈明および実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、かつ実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものとは認めることはできない。
したがって、平成2年9月4日付手続補正書による補正は、実用新案法第13条において準用する特許法第64条の規定に違反するものではなく、適法になされたものであるので、請求人が主張するように、該手続補正書によって補正がなされなかった実用新案登録出願について登録されたものとすることはできない。
それ故、以下、第一の理由ないし第三の理由について検討するに当たっては、本件考案の要旨は、補正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された前記1節で摘記したとおりの事項にあるものとする。
5.第一の理由について
請求人が第一の理由についての主張を立証するために提出した上記甲第1号証ないし甲第4号証の3について検討すると、次のとおりである。
甲第1号証には、複数の場所を同時に光学的に監視し電気システムに接続されて警報を発するものとして、異なる角度(85°、40°、0°、-40°、-85°)から入射される複数の光束を反射して略平行光束とするルーバ型に配置された複数個の平板ミラー(4~9)からなる光方向誘導体と、その光方向誘導体から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラー(凹面鏡3と示されている)と、その放物面ミラーの収束点に配置された検知ユニット1からなる受動式赤外線移動物体検知装置、が記載されている。
甲第2号証には、自動車のヘッドランプであって、電球から出た光を自動車の軸と平行ならしめるものとして、自動車の長手方向の軸に対し10°ないし20°の角度で傾斜しているガラス5を前面開口部に有するハウジング1と、ハウジング1内に公知の方法により取り付けられた放物反射面を有する反射体10と、反射体10に取り付けられた直接光カバー11を付けた電球12と、前記がラス5と反射体10との間に複数のプリズム21を設けた偏向装置20とを備え、偏向装置20により反射光Bを自動車の軸と平行ならしめている自動車用ヘッドランプが、第3図と共に記載されている。そして、第3図を見ると偏向装置20に形成された複数のプリズム21は、図の上部分および下部分ともに同一方向に傾斜(角度は27°(第2頁第72~73行))しており、電球12から出た光は反射体10にて反射され偏向装置20により同一方向、すなわち自動車の軸と平行な方向に出射されるものと認められ、複数の光束が異なる角度に出射されるものとは認められない。
甲第3号証には、各国における種々の法規制に対応する車両用灯火装置特に後退灯を提供するとして、電球、レンズ、反射板およびハウジングからなる車両用灯火装置において、レンズ1の上方1aは水平方向の光が出るように魚眼レンズとし、レンズ1の中間と下方1bは下方向に光が出るようにカットを施し鋸歯状断面としたもの(第2図(イ)(ロ)(ハ))、およびレンズ10の内面に前記電球の光線を下方向に屈折する断面鋸歯状のカット11を施し、前記ハウジング内でかつ前記レンズ内面に該カットに適合するカット14を有するアダプタレンズ15を着脱可能に設けたもの(第3図、第4図(イ)(ロ)(ハ))が記載されている。
甲第4号証の1(本件の審査手続における拒絶査定書)および甲第4号証の2(同拒絶理由通知書)において引用された刊行物である甲第4号証の3には、光軸方向の長さを短かくし小型で製造容易な光電スイッチを提供するとして、光電素子取付部の周囲に投光部を設けた印刷配線基板の電気部品取付面側に、反射型の光学系をその光軸が印刷配線基板と略直交するように配置し、光電素子を該光学系の焦点付近に位置させた光電スイッチにおいて、反射型の光学系を、凹面鏡3、61あるいは平面反射鏡81と透光性樹脂からなる前カバー7に形成した凸レンズ71の組み合わせで構成すること(第1~3図)が、記載されているが、この引用刊行物に基づく拒絶査定は、本件考案の審理の過程において取り消されたものである。
そして、本件考案(以下、前者という)と、甲第1号証に記載されたもの(以下、後者という)とを比較すると、後者の「異なる角度から入射される複数の光束を反射して略平行光束とするルーバ型に配置された複数個の平板ミラーからなる光方向誘導体」、「光方向誘導体から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラー」、および「放物面ミラーの収束点に配置された検知ユニット」は、それぞれ、前者の「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段」、「光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラー」、および「当該放物面ミラーの収束点に配置された受光素子」に相当し、また、後者の検知ユニットは電気システムに接続され警報を発するものであるから、後者の電気システムは検知ユニットからの出力信号に基づいて作動するスイッチ回路機能を包含していることは自明であり、後者の「検知ユニットに接続される電気システム」は、前者の「当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路」に相当するので、両者は、「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段と、当該光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に反射する放物面ミラーと、当該放物面ミラーの収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチ」であるという基本的事項で一致しているものの、後者における「光方向誘導体」は、「ルーバ型に配置された複数個の平板ミラーからなるもの」であってプリズムを備えておらず、甲第1号証には、本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段の前面には水平面を、そして後面には、中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成すること」については記載されてなく、また、甲第1号証にはこれらの構成を採用して、「構成が簡単であり、かつ監視する光束の変更を容易に行うことができさらに光束のカットを外部から容易に行うことができる広角型光電スイッチ提供すること」(本件明細者第3頁第12行~第15行)を計ることが示唆されているとは認められない。
また、甲第2号証に記載されたものは、放物反射面を有する反射体、および反射体側に複数のプリズムが設けられている偏向装置という光学系を備えている点では本件考案と類似しているが、本件考案とは技術分野も課題も異なる「自動車用へッドランプ」に係るものであり、しかも電球から出射される光線を1つの軸方向に平行ならしめるものであって、請求人がいう「光の可逆性」を考慮したとしても、本件考案のごとく異なる角度から入射される複数の光束を略平行光束とする光学手段とは機能構成において相違しており、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もなく、さらに、甲第3号証に記載されたものも、光を屈折する断面鋸歯状のカットを有するレンズと反射板とを備えた光学系という点においては、本件考案と類似するが、本件考案とは技術分野も課題も異なる「車両用灯火装置」であって、しかも光学手段であるレンズの後面中央部は、入射する光束をそのまま透過する平面とはなっておらず光学手段の構成が本件考案のものとは明らかに相違しており、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もない。
よって、甲第1号証に記載された技術に、技術分野、課題、および構成のいずれもが異なる甲第2、3号証に記載された技術を組み合わせたとしても、本件考案の上記構成要件の主要部を得ることができたとは認められない。
そして本件考案は、上記構成要件の主要部を備えることにより、前記1節の本件考案特有の効果(A)~(F)を奏するものである。
したがって、本件考案は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。
なお、請求人は、甲第1号証に記載された考案、および甲第2号証または甲第3証に記載された考案に基づく本件考案の推考容易性の主張の根拠として、甲第4号証の1ないし甲第4号証の3を挙示しているが、拒絶理由の引用刊行物である甲第4号証の3に記載されたものは、反射型の光学系とその焦点付近に位置させた光電素子からなる光電スイッチという点で本件考案と一致するが、上記した本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もなく、この引用刊行物に基づく拒絶査定は本件考案の審理の過程において取り消されたものであるので、本件考案の推考容易性の根拠たはなり得ない。
6.第二の理由について
請求人が第二の理由についての主張を立証するために提出した上記甲第5号証および甲第6号証について検討すると、以下のとおりである。
甲第5号証の先願明細書には、集光効率を従来装置と比較して格段に向上させるとともに、構造簡単かっ安価な光学系を採用した赤外線式移動物体検出装置を提供するとして、光学系として内側面に集光用レンズ面8を、また外側面には検知エリアの設定数や配置に応じた斜辺角度を適宜調整した複数の傾斜溝9の集合群からなる光分散用プリズム面7を形成した板状部材6を採用し、所定の検知エリアから放射される赤外線はそれぞれ予め設定された光分散用プリズム面7の所定の領域で、傾斜溝9の集合群に固有な斜辺の傾斜角度に応じて屈折されて集光レンズの光軸と略平行な光束とされ、板状部材6を通過して反対側の集光レンズ面8により集光されて受光素子2に入射されるところの赤外線式移動物体検出装置、が記載されている。そして、この赤外線式移動物体検出装置は「赤外線エネルギー量の変化を検出して自動ドアの開閉信号を出したり、あるいは防犯警報装置の発報信号を出すように構成したもの」(明細書第2頁第8~11行)であることから、この装置はスイッチ回路機能を備えたものであり、また、第2、3図によれば受光素子2は集光レンズの焦点に配置されているものと認められる。
甲第6号証は、甲第5号証にかかる出願がその後公開されたことを示す公開公報であるので、以下においては甲第5号証の先願明細書のみについて検討する。
そして、本件考案(以下、前者という)と、甲第5号証の先願明細書に記載されたもの(以下、後者という)とを対比すると、後者の「検知エリアの設定数や配置に応じた斜辺角度を適宜調整した複数の傾斜溝9の集合群からなる光分散用プリズム面7」は、前者の「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段」に相当し、後者の「集光レンズ」および前者の「放物面ミラー」は共に「略平行な光束を1つの収束点に集光するもの」であり、後者の「焦点に配置された受光素子」は、前者の「収束点に配置された受光素子」に相当し、そして後者はスイッチ回路機能を備えているものであるので、両者は「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段と、当該光学手段から出射される略平行な光束を一つの収束点に集光する手段と、当該収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチ」という基本的事項で一致しているものの、後者の「複数の傾斜溝9の集合群からなる光分散プリズム面7」は、「板状部材6」の外側面に形成されているので該「板状部材6」の外側面は平面ではなく、また、「板状部材6」の内側面には「集光レンズ面8」が形成されおり、光束を略平行に屈折するところのプリズム面ではないものと認められるので、甲第5号証の先願明細書には、本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段の前面には水平面を、そして後面には、中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成すること」については記載されてなく、両者は、光学手段の具体的構成において相違しているものと認めざるを得ない。
請求人は、後者の「集光レンズ」と前者の「放物面ミラー」とは均等であると主張しているが、後者の「集光レンズ」は光分散用プリズム面と一体的に構成することにより「多面鏡と窓材とに分離していた従来の光学系と比較して構造が極めて簡単になる上、非常に安価に製作することが可能になった」(明細書第6頁第16~19行)という後者の考案特有の効果を奏するものであり、集光レンズと放物面ミラーのいずれを採用するかによって受光素子との配置関係も変わるものであるので、「集光レンズ」と「放物面ミラー」とが光収束手段として一致していたとしても、本件考案の広角型光電スイッチにおいては均等とは認められない。
また、請求人は後者の「板状部材6の鋸歯状複合プリズム面(傾斜溝9)の配設ピッチが約0.5mmでほとんど平面である」旨主張しているが、この傾斜溝は、マスキングテープの厚み、その接着剤層の厚みおよび埃の大きさに対して無視することができない溝深さを有するものと認められるので、この後者の複合プリズム面を「平面」とみなすことはできない。
そして、本件考案は、上記光学手段の構成を有することにより、先願考案にはない前記1節の本件考案特有の効果(A)~(F)を奏するものである。
したがって、本件考案は、本件考案出願前に出願されその後に出願公開された甲第5号証の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案と同一であると認めることはできない。
7.第三の理由について
請求人が第三の理由についての主張を立証するために提出した上記甲第7号証には、人や物体の表面に存在する輝度分布や或いは人その他の熱源から発せられる赤外線を複数個の部分プリズムを透過させることにより周期的な信号として取り出し、この周期的な信号のレベルや周波数を検出することにより、人や物体の移動、火災の発生、人を含めた熱源の有無、エレベータかご内の暴力行為等による異常状態などのさまざまな状況を検出する装置であって、「複数の部分プリズムを有する検出体、該検出体の部分プリズムを透過した光線を集光する集光器、該集光器により集光された光線に対応する出力信号を発する検知器、該検知器の出力信号の内容を判定する判定装置とからなる状況検出装置」(特許請求の範囲第1項)について記載されており、さらに上記検出体の実施例として、「多数のカット面を有する広立体角プリズム、あるいは多数の部分プリズムを曲面上に配したもの」(特許請求の範囲第2、3項)、あるいは「平面上に複数の部分プリズムを有するもの(第4頁左上欄第5~7行)、ならびに「上記集光器は、レンズあるいは反射鏡からなること」(特許請求の範囲第4、5項)についても記載されており、第1図および第4図を見ると上記複数の部分プリズムは異なる角度から入射される複数の光束を屈折し集光器に出射するものと認められるので、甲第7号証には、「異なる角度から入射される複数の光束を屈折する曲面状または平面状に配した複数の部分プリズムを有する検出体、該検出体の部分プリズムを透過した光線を集光する集光器としての反射鏡、該反射鏡により集光された光線に対応する出力信号を発する検知器、該検知器の出力信号の内容を判定する判定装置とからなる状況検出装置」が記載されているものと認められる。そして、この状況検出装置は「自動ドアの制御やエレベータのかご内の異常検出、或いは火災報知器、防犯装置等」(第4頁左上欄第15~17行)に使用されるものであるので何らかの形態のスイッチ回路機能を包含しているものと認められる。
そして、本件考案(以下、前者という)と、甲第7号証に記載されたもの(以下、後者という)とを比較するとすると、後者は「異なる角度から入射される複数の光束を屈折する曲面状または平面状に配した複数の部分プリズムを有する検出体」、「検出体の部分プリズムを透過した光線を集光する集光器としての反射鏡」、「反射鏡により集光された光線に対応する出力信号を発する検知器」、「検知器の出力信号の内容を判定する判定装置」という構成要素を有し、これらは前者の「異なる角度から入射される複数の光束を屈折する光学手段」、「光学手段から出射される光束を一つの収束点に反射する放物面ミラー」、「放物面ミラーの収束点に配置された受光素子」および「受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路」にそれぞれ対応している点で、両者は類似しているものと認められる。
しかしながら、後者の「複数の部分プリズムからなる検出体」は、点光源1、1’、1”の移動により、検知器において第2図または第5図に示されているごとくの周期的な成分を含む出力信号を得ることができるよう、透明な部分プリズム部分3a~3eと不透明部分(第1図)、あるいは多数のカット面8'、8a~8e(第3、4図)から構成されているものであり、この検出体の光源側の前面が平面となるよう構成することが記載されているとは認めることができないし、後者の第1図によれば部分プリズム3cを通過した点光源1の光束はそのまま直進して広がっており平行光線となるように屈折されておらず、さらに第4図においても部分プリズム8cに入射した点光源1”の光束は、直進しているの対して、他の異なる角度から部分プリズム8a、8bに入射した点光源1、1’の光束は、広立体角プリズム8を通過した後、点光源1”の光束とは交差しており、点光源1”の光束と平行になって出射されているとは認められない。
よって、甲第7号証には、本件考案の構成要件である「光学手段が異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする」という機能を有すること、およびこの「光学手段の前面には水平面を、そして後面には、中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」という具体的構成を有することが全く記載されておらず、またこれらの事項を示唆するような記載も見あたらない。
そして、本件考案は、上記構成を有することにより、前記1節の本件考案特有の効果(A)~(F)を奏するものである。
したがって、本件考案は、前記甲第7号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることはできない。
8.第四の理由について
請求人が第四の理由についての主張を立証するために提出した上記甲第2号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第8号証ないし甲第22号証の2について検討すると、
甲第2号証には、前記5節において検討したとおりのものが記載されている。
甲第5号証および甲第6号証には、前記6節において検討したとおりのものが記載されているが、本件考案出願後の昭和59年9月27日に公知になったものと認められる。
甲第8号証には、請求人が本件考案についての実用新案登録出願前に日本国内において公然実施され、かつ公然知られた考案であると主張するオプテックス株式会社製の熱線スイッチ「OP-05P」という考案が挙示され、その現物に代わるものとして写真1~12が添付されている。この写真によれば、熱線スイッチ「OP-05P」は、薄型略直方体であり、その正面中央には乳白色で長方形板状の検知窓部材が着脱自在に設けられ、その検知窓部材の前面中央は平面となっており、前面左側および右側には鋸歯状のプリズム面が形成されており、このプリズム面には、付属品として添付されたエリア調整シールを張り付けること、さらに検知窓部材中央平面の中心垂線の延長線上には光学的な検出素子が設けられ、その周辺部には回路が形成され、DC35V・AC25V 0.1Aの出力接点を備えていることが示されている。
甲第9号証には、上記「熱線スイッチOP-05P」の商品カタログ内容、特に「特殊光学系(フレネルレンズ)により、高精度の横細長の検知エリアが得られる」こと、付属品としてエリア調整シールが添付されていること、信号出力として半導体スイッチを備えていることが記載されている。
甲第10号証には、上記商品「熱線スイッチOP-05P」の取扱説明、特に、所定の取付高で真下に向けた場合において、左右に細長い検知エリアA、B、C(例えば取付高3mでは、1.8M×0.3m(中央の検知エリアBは0.9m×0.3m))が得られること、および左右の検知エリアA、Cは付属のエリア調整シールを貼ることにより調整できることが記載されており、甲第11号証には上記「熱線スイッチOP-05P」の外形寸法が記載されている。
甲第12号証には、上記「熱線スイッチOP-05P」のサーキュラ・フレネルレンズの詳細な外形と寸法が記載されており、このサーキュラ・フレネルレンズの材質は高密度ポリエチレンであり、板状部材の一方の面に、変光角は中心線より外側へ15°、ピッチは0.5mmとする鋸歯状のプリズム部を中心部を除いた左右部分に形成し、他方の面に焦点距離f=35mm、肉厚0.7mmのレンズ部を形成した、最大幅46mm、最大高29.6mm、最大厚2.5mmとするものであることが記載されている。
甲第13号証にはオプテックス株式会社が熱線スイッチ「OP-05P」を商品名「パッシブドアセンサー」として4月21日から全国発売した旨の記載、および熱線スイッチ「OP-05P」の特徴と仕様の概略が記載されており、甲第14号証には、オプテックス株式会社が熱線スイッチ「パッシブ・ドアセンサーOP-05P」を4月21日から発売する旨の記事、および熱線スイッチ「OP-05P」の特徴と仕様の概略が記載されており、甲第15号証にはオプテックス株式会社が熱線スイッチ「パッシブ・ドァセンサー」を21日から販売を開始する旨の記事、および当該熱線スイッチの特徴と仕様の概略が記載されており、甲第16号証にはオプテックス株式会社が熱線スイッチ「パッシブ・ドアセンサー」を21日から販売を開始する旨の記事、および当該熱線スイッチの特徴と仕様の概略が記載されており、甲第17号証にはオプテックス株式会社が熱線スイッチ「パッシブドァセンサー」OP-05Pを発売する旨の記事、および熱線スイッチ「OP-05P」の特徴と仕様の概略が記載されている。
さらに、甲第18号証には本件出願に係る登録異議申立の内容が、甲第19号証には本件出願に係る登録異議申立理由補充の内容が、甲第20号証には本件出願に係る登録異議申立弁駁の内容が甲第21号証には本件出願に係る登録異議申立手続における証拠調期日指定通知の内容が、甲第22号証の1には本件出願に係る登録異議申立手続における証人尋問申立および当事者尋問申立の内容が、甲第22号証の2には本件出願に係る登録異議申立手続における証人尋問の内容が、それぞれ記載されている。
これら甲第8号証ないし甲第22号証の2を総合すると、甲第8号証の考案における前記板状の検知窓部材の前面に形成された中央の平面部および左右の鋸歯状プリズム面からなる複合プリズム面は、異なる角度から入射される複数の光束を屈折するものであり、前記検知窓部材の後面に形成されたサーキュラ・フレネルレンズは、前記複合プリズム面により屈折された光束を一つの収束点に収束するものであるので、請求人が、本件考案についての実用新案登録出願前に日本国内において公然実施され、かっ公然知られた考案であると主張するオプテックス株式会社製の熱線スイッチ「OP-05P」に係る考案は、
「異なる角度から入射される複数の光束を屈折して一つの収束点に収束する光学系と、当該光学系の収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチにおいて、
前記光学系の前面には中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり他の光束を屈折する複数のプリズム面とが形成され、その後面には集光用レンズ面が形成された広角型光電スイッチ。」
という構成を有するものと認められる。
そこで、本件考案(以下、前者という)と甲第8号証として挙示された上記熱線スイッチ「OP-05P」に係る考案(以下、後者という)とを対比すると、両者は「異なる角度から入射される複数の光束を屈折し、さらに一つの収束点に収束する光学系と、当該光学系の収束点に配置された受光素子と、当該受光素子の出力信号に基づいて作動するスイッチ回路とを備えた広角型光電スイッチ」である点で一致しているといえるものの、前者においては、前記光学系は「異なる角度から入射される複数の光束を屈折する光学手段」と「当該光学手段から出射される光束を一つの収束点に反射する放物面ミラー」とから構成されているのに対して、後者においては、光学系は一つの板状の「検知窓部材」として構成されており、しかも、その「検知窓部材」の前面は複数の鋸歯状のプリズム面が形成されていて「平面」とは認められず、その後面はサーキュラ・フレネルレンズからなる集光用レンズ面が形成されていて「プリズム面」ではないので、本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成、
「広角型光電スイッチを構成する異なる角度から入射される複数の光束を屈折して略平行光束にする光学手段の前面は、水平面とされ、該光学手段の後面は、中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成する」
点を具備していない点で相違している。
そして、請求人が証拠として提出した甲第8号証ないし甲第22号証の2においてはこれらの事項を示唆するような記載も見あたらない。
甲第2号証に記載されたものは、放物反射面を有する反射体と、該反射体側に複数のプリズムが設けられている偏向装置とからなる光学系を備えている点では本件考案と類似しているが、本件考案とは技術分野も課題も異なる「自動車用ヘッドランプ」に係るものであり、しかも電球から出射される光線を1つの軸方向に平行ならしめるものであって、請求人がいう「光の可逆性」を考慮したとしても、本件考案のごとく「異なる角度から入射される複数の光束を略平行光束とする光学手段」とは基本的な機能構成において相違しており、上記の本件考案の構成要件の主要部である光学手段の具体的構成については開示も示唆もない。
請求人は、光束を集光する手段として凸レンズと凹面ミラーとは相互に置換し得る均等物であるので、甲第8号証の考案において板状の検知窓部材の後面に設けられたフレネル型凸レンズを凹面ミラー、例えば放物面ミラー、に置換し、検知窓部材の前面に形成されたプリズム面を前面から後面に移し変えるとともに、検知窓部材の前面を平面にすることは、何らの考案力も必要としない設計的事項に過ぎない、と主張しているが、甲第8号証の考案は、異なる角度から入射される複数の光束を屈折する複合プリズム面と、光束を一つの収束点に収束する集光手段であるサーキュラ・フレネルレンズとを、着脱自在な一つの板状の検知窓部材として一体に形成したことを特徴とするものと認められる以上、外見形状が類似する光学手段が開示された甲第2号証が存在したとしても、これらを分離して構成するとともに複合プリズム面を検知窓部材の前面から後面に移し変え、さらに前面を平面とすることを想起することは困難と認められざる得ず、何らの考案力も必要としない設計的事項とはいえない。
よって、甲第8号証に挙示された熱線スイッチ「OP-05P」に係る考案に、技術分野、課題、および構成のいずれもが異なる甲第2号証に記載された考案を組み合わせたとしても、本件考案の上記構成要件の主要部を得ることができたとは認められない。
そして、本件考案は、上記構成を有することにより、前記1節の本件考案特有の効果(A)~(F)を奏するものである。
なお、請求人は、甲第8号証の考案における効果は本件考案の効果と一致する旨主張しているが、甲第8号証の検知窓部材前面に形成された鋸歯状プリズム面の深さは微細(請求人は約0.3mmと主張といえども、マスキングテープの厚み、その接着剤層の厚みおよび埃の大きさに対して無視することができないものであるので、この鋸歯状プリズム面を「平面」とみなすことはできず、光学手段の前面を「平面」とした本件考案の効果が、甲第8号証の考案における効果と一致するものとすることはできない。
したがって、たとえ甲第8号証として挙示された熱線スイッチ「OP-05P」に係る考案が本件考案についての実用新案登録出願前に日本国内において公然実施され、かつ公然知られた考案であったとしても、本件考案は、この熱線スイッチ「OP-05P」に係る考案および甲第2号証に記載された考案とに基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとすることはできない。
9.結び
以上のとおりであるから、請求人の主張する第一の理由ないし第四の理由および証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない。
よって結論のとおり審決する。
平成7年4月17日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
別紙
<省略>